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名古屋の映像制作会社が知っておくべき自動車産業の今 - その2

更新日:5 日前


  1. 電動化の波と技術転換の課題 - EVシフトの遅れ、内燃機関からの脱却、充電インフラの課題

  2. 自動運転技術の発展と競争構造の変化 - 技術開発の現状、データ活用能力、MaaSの台頭

  3. 国際競争の激化と市場シェアの変動 - 中国市場での競争、欧州での規制強化、新興国での価格競争

  4. 人材不足と技術継承の問題 - 熟練技術者の高齢化、IT人材不足、国際的な人材獲得競争

  5. サプライチェーンの構造変化 - 系列システムの限界、電動化に伴う調達変化、半導体不足

  6. 名古屋周辺地域への影響 - 愛知県の自動車産業の現状、部品メーカーへの影響、雇用構造の変化

  7. 技術革新への対応 - 研究開発投資、産学連携、人材育成

  8. 政策支援と産業振興 - 国レベルの政策、地域振興政策、産学官連携

  9. 今後の展望と課題 - 2030年に向けた技術ロードマップ、競争構造の変化、地域の将来像

  10. 株式会社SynAppsが、名古屋の映像制作会社としてできること


内燃機関

第4章:人材不足と技術継承の問題


4.1 熟練技術者の高齢化と技術継承の課題


日本の自動車産業は、長年にわたって熟練技術者の技能と経験に支えられてきました。しかし、これらの熟練技術者の多くが高齢化し、引退の時期を迎えています。一方で、若い世代の製造業離れや、自動車業界への就職希望者の減少により、技術継承が大きな課題となっています。

特に、精密加工技術、品質管理技術、生産技術などの分野では、長年の経験と勘に基づく技能が重要な役割を果たしています。これらの技能は、マニュアル化や標準化が困難な部分が多く、ベテラン技術者から若手技術者への直接的な指導が不可欠です。しかし、少子高齢化の進展により、このような技術継承の機会が減少しており、技術レベルの維持が困難になっています。

また、自動車産業の技術革新により、求められる技能も変化しています。従来の機械加工技術に加えて、電子制御技術、ソフトウェア開発技術、データ解析技術などの新しい技能が必要となっていますが、既存の技術者がこれらの新技術を習得することは容易ではありません。一方で、新しい技術分野の専門家を外部から採用することも、従来の自動車業界の給与水準や働き方では困難な場合が多いのが現状です。


4.2 IT・ソフトウェア人材の不足


自動車の電動化や自動運転技術の発展により、IT・ソフトウェア人材の重要性が急速に高まっています。現代の自動車には数百万行のソフトウェアコードが搭載されており、その開発・保守・更新には高度なソフトウェア技術が必要です。また、車載システムのセキュリティ対策、データ解析、人工知能の活用など、従来の自動車業界にはなかった技術分野での専門性が求められています。

しかし、日本の自動車業界では、IT・ソフトウェア人材の確保に苦慮しています。IT業界と自動車業界では、働き方や企業文化に大きな違いがあり、IT人材の自動車業界への転職は限定的です。また、自動車業界の給与水準は、IT業界に比べて必ずしも競争力があるとは言えず、優秀な人材の確保が困難な状況にあります。

さらに、自動車業界特有の長期開発サイクルや厳格な品質管理要求は、IT業界の短期間での製品リリースや継続的な改善というアプローチとは相容れない部分があります。この文化的な違いを克服し、IT人材が自動車業界で活躍できる環境を整備することが、技術革新を進める上で重要な課題となっています。


4.3 国際的な人材獲得競争の激化


自動車業界の技術革新に必要な人材は、国際的に不足しており、世界各国の企業が優秀な人材の獲得競争を繰り広げています。特に、電池技術、パワーエレクトロニクス、自動運転技術、人工知能などの分野では、限られた数の専門家を世界中の企業が争奪している状況です。

アメリカや中国の企業は、高額な報酬や魅力的な研究環境を提示して、世界中から優秀な人材を集めています。テスラやウェイモなどの企業は、従来の自動車メーカーからも積極的に人材を引き抜いており、日本の自動車メーカーも例外ではありません。また、中国の自動車・電池メーカーは、日本や韓国の技術者を高額な報酬で招聘しており、技術流出の懸念も生じています。

日本の自動車メーカーは、国際的な人材獲得競争において不利な立場に置かれています。言語の壁、労働法制の制約、企業文化の違いなどにより、外国人人材の採用や活用に課題を抱えています。また、日本国内での研究開発環境や生活環境についても、国際的な競争力を持っているとは言い難い状況です。



第5章:サプライチェーンの構造変化と調達戦略


5.1 従来の系列システムの限界


日本の自動車産業は、長年にわたって系列システムと呼ばれる独特のサプライチェーン構造を構築してきました。この系列システムは、自動車メーカーを頂点として、一次サプライヤー、二次サプライヤー、三次サプライヤーという階層構造を形成し、長期的な取引関係と技術開発の協力により、高品質な製品の安定供給を実現してきました。

しかし、電動化や自動運転技術の発展により、従来の系列システムの限界が露呈しています。電気自動車に必要な電池やパワーエレクトロニクス部品は、従来の系列企業が得意とする分野ではなく、新たなサプライヤーとの関係構築が必要となっています。また、ソフトウェア開発やデータサービスの分野では、従来の製造業とは異なる企業文化や取引慣行を持つIT企業との協業が不可欠です。

系列システムの閉鎖性は、新技術の導入や新規サプライヤーとの取引において障害となる場合があります。長期的な取引関係を重視する系列システムでは、短期間での技術革新や市場変化への対応が困難な場合があり、グローバルな競争において劣勢に立たされる可能性があります。また、系列企業の技術力や競争力が低下した場合でも、取引関係の継続が優先される傾向があり、最適なサプライヤーの選択が阻害される場合があります。


5.2 電動化に伴う部品調達の変化


電気自動車の普及により、自動車産業のサプライチェーンは根本的な変化を迫られています。内燃機関車では、エンジン、トランスミッション、排気系統など、多数の精密部品が必要でしたが、電気自動車ではこれらの部品が不要となり、代わりに電池、モーター、インバーターなどの電動部品が中心となります。

電池については、現在のところ中国や韓国のメーカーが世界市場を席巻しており、日本の自動車メーカーは競争力のある電池の調達に苦慮しています。電池は電気自動車のコストの大部分を占めるため、電池の調達戦略は事業の成否を左右する重要な要素となっています。また、電池の性能向上や価格低下のスピードは非常に速く、長期的な調達契約を結ぶことのリスクも高まっています。

モーターやインバーターなどのパワーエレクトロニクス部品についても、従来の自動車部品メーカーが必ずしも競争力を持っているわけではありません。これらの分野では、産業機器メーカーや電子部品メーカーの技術が重要となっており、自動車メーカーは新たなサプライヤーとの関係構築が必要となっています。


5.3 半導体不足と調達リスクの顕在化


近年、自動車産業は深刻な半導体不足に直面しています。新型コロナウイルス感染症の影響による需要変動、地政学的な緊張の高まり、自然災害による生産停止など、様々な要因により半導体の供給が不安定化し、自動車の生産に大きな影響を与えています。

現代の自動車には、エンジン制御、安全システム、インフォテインメント、電動化システムなど、多数の半導体が搭載されており、一つの半導体の不足でも生産停止につながる可能性があります。特に、自動車用半導体は、民生用半導体に比べて品質要求が厳しく、限られた数のメーカーしか供給できないため、供給リスクが高い状況にあります。

半導体不足は、従来の自動車産業のジャスト・イン・タイム生産システムの脆弱性を露呈しました。在庫を最小限に抑えることで効率化を図ってきた生産システムは、供給途絶のリスクに対して脆弱であり、一定の戦略的な在庫の確保や、複数の供給源の確保が必要となっています。また、半導体メーカーとの長期的なパートナーシップの構築や、場合によっては垂直統合による内製化も検討されています。



第6章:名古屋周辺地域の自動車産業への影響


6.1 愛知県の自動車産業の現状と特徴


愛知県は、日本の自動車産業の中心地として、長年にわたって日本経済を牽引してきました。トヨタ自動車を筆頭に、多数の自動車メーカーとその関連企業が集積しており、「自動車王国愛知」と呼ばれる産業集積を形成しています。愛知県の製造品出荷額等は、1977年以来日本一を維持しており、その競争力の源泉は自動車産業にあります。

愛知県内には、トヨタ自動車の本社をはじめ、豊田合成、アイシン、デンソーなど、多数のトヨタグループ企業が本社を置いています。また、三菱自動車工業の岡崎工場、スズキの湖西工場なども立地しており、自動車産業の一大集積地となっています。これらの企業は、相互に密接な取引関係を持ち、技術開発や生産において協力関係を築いています。

名古屋市を中心とする中京圏は、自動車産業だけでなく、航空宇宙産業、工作機械産業、セラミックス産業など、多様な製造業が集積する「ものづくり中部」として知られています。特に、精密加工技術、材料技術、生産技術などの分野では、世界でも有数の技術力を持つ企業が多数存在し、これらの技術が自動車産業の競争力を支えています。

しかし、この産業構造の特化は、同時に自動車産業の変化に対する脆弱性も抱えていることを意味します。愛知県の製造業における自動車関連産業の割合は非常に高く、自動車産業の動向が地域経済全体に与える影響は極めて大きいものがあります。電動化や自動運転技術の発展、国際競争の激化など、自動車産業を取り巻く環境変化は、直接的に愛知県の製造業に影響を与える構造となっています。


6.2 電動化による部品メーカーへの影響


電気自動車の普及は、愛知県を中心とする自動車部品メーカーに大きな影響を与えています。従来の内燃機関車では、エンジン関連部品、トランスミッション部品、排気系統部品など、多数の精密部品が必要でしたが、電気自動車ではこれらの部品の多くが不要となります。愛知県内には、これらの内燃機関関連部品を製造する企業が多数存在しており、事業の転換が急務となっています。

特に、エンジン部品を製造する企業は、電動化の進展により事業の存続に関わる深刻な課題に直面しています。ピストン、バルブ、カムシャフト、点火プラグなど、内燃機関に特化した部品は、電気自動車では全く必要がなくなるため、これらの部品を主力事業とする企業は、根本的な事業転換を迫られています。

一方で、電気自動車に必要な新しい部品の製造においては、愛知県の部品メーカーが必ずしも競争優位を持っているわけではありません。電池、モーター、インバーターなどの電動部品は、従来の自動車部品とは異なる技術領域であり、新たな技術の習得と設備投資が必要となります。しかし、これらの分野では既に海外メーカーが優位性を確立している場合が多く、愛知県の部品メーカーは後発として厳しい競争を強いられています。

デンソーやアイシンなどの大手部品メーカーは、電動化への対応として、電動部品の開発・製造に大規模な投資を行っていますが、その効果が現れるまでには時間がかかると予想されます。また、中小の部品メーカーについては、単独での電動化対応は困難な場合が多く、業界再編や新たな協業関係の構築が必要となっています。


6.3 雇用構造の変化と労働市場への影響


自動車産業の構造変化は、愛知県の雇用構造にも大きな影響を与えています。従来の内燃機関車の製造では、精密加工、組立、品質管理など、熟練技術者の技能が重要な役割を果たしていました。しかし、電気自動車の製造では、これらの技能の重要性が相対的に低下し、代わりに電気・電子技術、ソフトウェア開発、データ解析などの新しい技能が求められています。

この技能要求の変化により、既存の従業員の再教育や新しい分野での人材確保が重要な課題となっています。特に、中高年の熟練技術者については、新しい技術分野への適応が困難な場合が多く、雇用の維持が課題となっています。一方で、IT・ソフトウェア分野の若手人材については、自動車業界よりもIT業界を志向する傾向が強く、人材確保に苦慮している企業が多いのが現状です。

また、自動車産業の生産性向上や自動化の進展により、製造現場での雇用が減少する可能性もあります。電気自動車は、内燃機関車に比べて部品数が少なく、組立工程も簡素化されるため、従来と同じ生産量を維持するために必要な労働力は減少すると予想されます。これにより、製造業における雇用の減少や、サービス業への労働力移転が進む可能性があります。


6.4 中小企業への影響と事業転換の課題


愛知県の自動車産業を支えているのは、多数の中小企業です。これらの中小企業は、特定の部品や工程に特化した高い技術力を持ち、大手自動車メーカーや一次サプライヤーとの長期的な取引関係を築いてきました。しかし、自動車産業の構造変化により、これらの中小企業も大きな影響を受けています。

特に、内燃機関関連の部品を製造する中小企業は、電動化の進展により事業の継続が困難になる可能性があります。これらの企業は、長年にわたって特定の技術分野に専門化してきたため、新しい技術分野への転換は容易ではありません。また、中小企業は大企業に比べて研究開発投資や設備投資の余力が限られており、単独での事業転換は困難な場合が多いのが現状です。

一方で、精密加工技術、材料技術、表面処理技術など、自動車産業で培われた技術の中には、他の産業分野でも活用可能なものが多くあります。航空宇宙産業、医療機器産業、ロボット産業などの成長分野への参入により、事業の多角化を図る企業も増えています。しかし、これらの新しい市場への参入には、技術開発、品質管理体制の構築、販路開拓などの課題があり、支援体制の整備が重要となっています。

愛知県や名古屋市などの自治体は、中小企業の事業転換を支援するため、技術開発支援、人材育成支援、販路開拓支援などの施策を実施しています。また、産学連携による技術開発や、企業間の協業促進なども重要な取り組みとなっています。

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