動画・映像制作用語
【ノートリ】
notrimming
「ノートリ」とは、写真用語で撮影した写真を後から切り抜き(トリミング)などの加工を一切していない状態、撮ったままの状態で使用することを指します。
フィルム撮影時代には、トリミングに頼らず、撮影時点で完璧なフレーミングを行うことが、撮影者の高い技術の証明であると考えれていて、デジタル時代の今もそう考える人が一定数います。さらに、技術的な都合で、印刷時に写真の周辺が微妙に断ち切られることを嫌うカメラマンは「ノートリで頼みます」と言います。それほどフレーミングに注意を払っているということです。
動画ファイルのトリミング
ビデオファイルにおいても「トリミング」の概念があります。
①クリップの時間軸を調整(前後をカット)する。
②画像(フレーム)周囲の縦横をカットする(クロップとも言います)。
①は編集ソフトで行う必須工程ですが、②は必要に応じて意図をもって行います。
トリミングに関する賛否
「写真」には美術的、技術的な価値に加えて、哲学的、精神的なメッセージが内在する場合があるため、「ノートリ」にも価値があるかも知れません。特にフォトジャーナリズムにおいては今も重要な意味を持ちます。
しかし、少なくとも広告写真については、写真単独で提示されることは少ないものです。雑誌紙面や広告ポスターなどでは、テキストや他のグラフィックとのバランスを考慮して、必ずグラフィックデザインされて完成することから、そのパーツとしての1枚の写真に、ノートリの価値を求めるのは極めて困難です。
同様に、映像コンテンツにおいても、ニュース番組やドキュメンタリーにおいては、フェイクを生み出す可能性があり、トリミング(クロップ)の利用は倫理的な問題をはらんでいる場合がありますので、注意が必要です。
しかし、CMやVPにおいては、シナリオや映像構成の文脈(カット割)に応じて、素材の構図やフレーミングを変更するのは止むを得ないものと考えられます。それによって流麗なシーン構成が可能になるからです。トリミングしても画素が粗れないという、4K以上の高解像度での撮影が可能になった今の技術による恩恵とも言えます。
動画編集において素材トリミング(クロップ)が有効な場面
1. 不要な要素の除去と視線の誘導
撮影された映像素材には、意図しないものがフレームインしていたり、主要な被写体以外のものが目立っていたりする場合があります。このような場合にトリミングを行うことで、不要な要素を画面から排除し、視聴者の視線を主要な被写体や伝えたいポイントに集中させることができます。例えば、インタビュー映像で背景に散らかったものが映り込んでいる場合、人物を中心にトリミングすることで、よりインタビュー内容に集中させることができます。
2. 構図の調整と画面バランスの最適化
撮影時のフレーミングが必ずしも完璧であるとは限りません。編集段階でトリミングを行うことで、構図のバランスを微調整し、より安定した、あるいは意図した印象を与えることができます。例えば、左右の余白が広すぎる場合に少しトリミングして被写体を中央に寄せたり、構図を意識してトリミングしたりすることで、画面の見やすさや訴求力を高めることができます。
固定されたカメラで撮影された素材に対して、編集時にトリミングと位置・サイズの変更を組み合わせることで、擬似的なカメラワーク(パン、チルト、ズームイン・アウト)を表現することができます。これにより、単調になりがちな映像に動きを与え、視聴者の興味を引きつけ、ストーリーテリングをよりスムーズにすることができます。例えば、広角で撮影された風景映像の一部を徐々にズームインしていくことで、特定の場所に注目を集めることができます。
4. マルチアングル素材の有効活用
複数のカメラで同じシーンを異なるアングルから撮影した場合、編集時にそれぞれの素材を切り替えて使用しますが、トリミングによって各アングルのフレーミングを微調整し、連続性や視覚的な変化をスムーズにすることができます。例えば、バストショットと全身ショットを切り替える際に、顔の大きさが極端に変わらないようにトリミングで調整すると、視聴者に違和感を与えにくくなります。
5. 特殊な画面比率への対応
最終的な映像の配信プラットフォームや上映環境によって、求められる画面比率(アスペクト比)が異なる場合があります。撮影された素材の画面比率が異なる場合でも、トリミングによって必要な部分を切り出し、指定された画面比率に合わせることができます。例えば、16:9で撮影された素材を縦型のSNS動画として使用する場合、上下をトリミングして9:16に調整する必要があります。
6. 素材の再利用と多様な表現
一つの撮影素材から、異なる部分をトリミングして複数のカットを作成することができます。これにより、限られた素材を有効活用し、映像のバリエーションを増やすことができます。例えば、広い風景を撮影した素材から、特定の花にクローズアップしたカットや、遠景の山並みを強調したカットなど、複数の異なる印象のカットを作り出すことができます。
カメラマンへの配慮
このように、動画編集における素材のトリミング(クロップ)は、単に不要な部分を切り取るだけでなく、映像の質を高め、表現の幅を広げるための有効な手段です。しかし、第一義的には、計画的な撮影を行うことが重要であり、後段での加工を前提とした撮影は、カメラマンとして重要なフレーミングの技能を高度化させるトレーニングの妨げになるものだと認識すべきです。
また、撮影済み素材にはカメラマンの著作権、著作人格権が付随していることにも配慮する必要があります。トリミング(クロップ)して利用することは、事前に了承を求めるべきです。

【関連用語】
1. クロップ
映像編集ソフトにおいて、映像の一部分を切り抜く機能です。不要な背景や映り込んだものを削除したり、画面の構図を調整したりする際に用います。切り抜く範囲は縦横比によって設定でき、特定の被写体に注目を集めたい場合や、複数の映像素材の構図を揃えたい時にも役立ちます。アニメーション設定により、時間経過とともに切り抜き範囲を変化させる表現も可能です。
2. トランジション
映像と映像の切り替わりを滑らかに見せる効果です。カットとカットの間に挿入することで、 唐突な印象を避け、視覚的な流れを作り出します。ディゾルブ(徐々に重ねて切り替え)、フェードイン・アウト(徐々に表示・非表示)、ワイプ(線や図形で押し出すように切り替え)など、様々な種類があります。
3. オートリフレーム
縦型や正方形など、異なるアスペクト比の動画に対して、主要な被写体が常に画面中央付近に収まるように自動で調整する機能です。SNSなど様々なプラットフォームに動画を最適化する際に便利です。AIが映像内の動きを解析し、自動的にパンやチルト、ズームを行うことで、視聴者はどのデバイスで見ても見やすい映像体験を得られます。
4. ワイプ
一方の映像が、線や図形などの境界線によって徐々に別の映像に置き換わっていく効果です。トランジションの一種です。境界線の形状や動き、ぼかし具合などを細かく設定できるものが多く、ユニークなシーンの切り替えや、画面分割のような表現にも応用できます。
5. モザイク
映像の一部分にぼかしやドット状の処理を施し、視覚的に隠蔽する効果です。人物の顔やナンバープレートなど、プライバシー保護や機密情報を隠したい場合に用いられます。モザイクの強さや範囲は調整可能で、必要に応じてアニメーションを適用し、追尾させることもできます。